家「生きてる!」
え「なんですか突然」
家「死にかけた」
え「え、そうだったんですか?」
家「お前、傍で見てただろ! 『カイジ』読みながら!」
え「えーだって……人食いパチンコ台『沼』と格闘するカイジさんの方が、ベッドで寝てる家主さんよりよっぽど死にそうだったし」
家「……いや……たしかにカイジと比較されちゃうと、俺なんかまだまだなんだが……。背景に“ざわ……ざわ……”が出せないし」
 
え「で? なんでしたっけ。風邪でお腹壊したんでしたっけ?」
家「そうそう。それでー、……おとといか? もう時間の感覚が分からなくなってるんだが、突然病状が悪化してな。なんか、血便っぽいのが出て、えー大丈夫か俺? ……と思った次の瞬間から! もう、ノンストップで下る下る! まさに黄金の滝!
え「(……汚いなー……)」
家「いや、本当は色なんて付いてなかった。お尻拭いても、紙が全然汚れないの。飲んだ水がそのまま排出されてる感じで」
え「あの、汚い話はその辺で結構ですから」
家「聞いてくれよ頼むから!」
え「……わかりました。それで病院へ?」
家「うむ。夜通しトイレ行きまくって、『これはもうヤバイ。生命がピンチ』と直感して、朝になってタクシー呼んで、呼んでる間に3回トイレ行って、病院行って受け付け済ませてトイレ行って、待合室で待ってる間に2回トイレ行って、診察して貰ってレントゲン取ってトイレ行って、採血して点滴打ってもらって、点滴しながら3回トイレ行った」
え「トイレばっか! あんたトイレしに病院行ったんですか(笑)」
家「いやほんと、飲んでも出るだけだから飲まず食わずだったんだけど、トイレに行くたびに意識が薄れていくのを実感した(笑)。最後、点滴打ちながら気失ったし」
え「それは単に寝ちゃっただけでは」
家「そうともいう(笑)。ほら、夜トイレばっかりいって寝不足だったんだよ。マジで。うつらうつらするとズキューン! って来るんだもん。お前、トイレで用を足して、出ようとしたらまた行きたくなるという、魔の『トイレスパイラル』を味わったことがあるか!」
え「……それを乙女に訊きますか」
家「まあそんなこんなで。点滴のおかげで、なんとか腸の機能も復活して、以降はそれほど凶悪なゲリは起こらなくなったけど。なんか検査の結果、入院するほどじゃないけど腸が炎症を起こしてる……とかいわれちゃって」
え「あら。ほんとに病気だったんですね」
家「……こんだけ酷い目にあってるのに、病気じゃなかったらむしろおかしいだろう。なんだ! 俺はトイレに行きまくってる状態が正常だというのか!」
え「わかったわかった、落ち着いてください(笑)」
 
家「しかしホント、一寸先は闇というか。人間、いつ死ぬかわからんな」
え「あ、なんか悟ってますね」
家「うむ……モーローとする意識の中で、色々考えちゃったよ。俺、まだ何にもしてないのにー! 新作を描き始めたばっかりなのにー! こんなところで死ぬのはー! せめてもうちょっとカッコイイ病気でー! って」
え「カッコイイ病気ってなんだ(笑)」
家「いやなんかこう、あるじゃん? いかにも同情を引けそうな、薄幸なイメージの病気」
え「たしかに『下痢』じゃあ同情は引けないと思いますが……現実にそういう病気で苦しんでる人のことも考えてください」
家「わかったわかった。ともかく、いつ死ぬかわからん以上、建設的な生き方とかしてる場合じゃないな! と悟ったわけよ」
え「え"
家「10年後を見据えたキャリアプランとか! ふざけんな! 10年後死んでたらどーすんだ! もう先のこととか考えるのやめた! 今やりたいことだけ考えることにする! 10年後のことなんて、しーらない!」
え「間違ってる……絶対間違ってる……」